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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)60号 判決 1980年2月28日

大阪市東成区大今里本町二丁目一六三番地

(送達場所 大阪市生野区田島町六丁目一四番一号、株式会社千隆本社内)

控訴人

木林菊夫

右訴訟代理人弁護士

太田全彦

大阪市東成区東小橋二丁目一番七号

被控訴人

東成税務署長

砂本寿夫

右指定代理人

細川俊彦

小林修爾

仲村清一

中村武雄

細川健一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、申立

1  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人が木林栄こと控訴人に対し、昭和四四年三月四日付でした所得税の青色申告承認取消処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二、主張及び証拠

当時者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人

被控訴人が本件処分(所得税の青色申告承認の取消)当時控訴人に対してこれをなす意思であったことは、次の各事実によっても明らかである。

(一)  被控訴人は昭和四四年三月四日付で「木林栄」を名宛人として本件処分をなすとともに、同日付で昭和四〇年ないし同四二年分の「木林栄」名義の所得税のいわゆる零更正をなし、更に同日付で控訴人について右各年分の所得税の更正処分をして、過少申告重加算税を課しているが、仮に本件処分が栄に対してなされたものであるとすれば、右のような更正処分は誤っていることになる。すなわち、控訴人は無申告であるから、更正ではなく決定でなければならず、しかも、無申告重加算税を課すべきであるのに、過少申告重加算税が課されているのは、当時被控訴人において「木林栄」と控訴人との同一性を肯定していたことの証左である。

(二)  控訴人に対する右各年分の所得税更正処分の取消訴訟(大阪地方裁判所昭和五四年(行ウ)第八六ないし第九〇号事件、以下別件訴訟という。)において、被控訴人は「所得税法は青色申告を更正する場合には、その通知書に理由を附記すべきものと指定しているが、控訴人のように白色申告をしている場合には云々」と主張している。しかし、控訴人は右各年分につき白色申告をした事実は全くないから、被控訴人は、控訴人が「木林栄」名義で青色申告をなし、その申告承認が本件処分により取消されたがために、控訴人の申告が白色申告になった、と考えていたものとみなければ、被控訴人の右主張は論旨一言せず、それ自体矛盾することになる。

(三)  控訴人に対する所得税法違反被告事件の刑事判決では明確に「被告人は肩書住所地等において、被告人の妻木林栄の名義で酒類販売並びに飲食業を営み、同女名義で被告人の所得税の申告をしているものであるが云々」と犯罪事実を認定しているが、本件処分は控訴人に対する右刑事訴追の段階からこれに対応する行政処分としてなされたものであるから、右刑事判決と異なる事実を認定することは許されないといわなければならない。

2  被控訴人

控訴人の右主張はすべて争う。

3  証拠

(一)  控訴人

甲第九、一〇号証の各一ないし三、第一一号証

(二)  被控訴人

右甲号各証の成立は認める。

理由

一、当裁判所も、控訴人の本件訴えは不適法として却下を免れないと認定、判断するものであって、その理由は次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

二、控訴人の当審における主張について判断する。

1  まず、右主張の(一)、(二)の事由について考察するに、成立に争いのない甲第九、一〇号証の各一ないし三によると、被控訴人が昭和四四年三月四日付で本件処分をなすとともに、同日付でその主張の各年分の「木林栄」名義の所得税についていわゆる零更正をなし、更に同日付で控訴人について右各年分の所得税の更正処分をして、過少申告重加算税を課していること、また、成立に争いのない甲第一一号証によると、被控訴人が別件訴訟において、控訴人が白色申告をしているかのような主張をしていることが各認められ、控訴人がその主張の如く右各年分につき無申告であったとすれば、控訴人についてはほんらい無申告による決定処分により無申告重加算税が課せられるべきであるから、この点被控訴人に指摘のような課税手続の誤りや主張の不備があったことは否定できないといわざるをえない。

しかしながら、控訴人の妻の栄が従前から酒類販売の免許を受けて、大阪市東成区今里において酒類販売店を営んでいたことは、当事者間に争いがないところ、右事実からすれば酒類販売業の事業主は名実ともに栄であったことが明らかであり、従って、本件処分により取消された当該青色申告承認処分は右事業主である栄の申告により同人に対してなされたものと認めるのが相当である。そうすると、右承認処分が栄に対するものである以上、これを取消す旨の本件処分も当然原判決の認定、判断するように、被控訴人ではなく右栄を相手方としてこれをなしたものとみるほかはないから(けだし、取消の対象たる原承認処分の相手方以外の第三者に対し、これを取消してみても何らその効果を生せず、それ自体無意味な処分に帰するからである。)、たとえ、被控訴人に前示のような手続上の誤りないし別件訴訟での主張の不備があったとしても、このことから直ちに右認定を覆えし、被控訴人が本件処分当時栄と控訴人とを同一視し、これを控訴人に対する趣旨でなしたとまで速断することは困難である。

2  また、控訴人主張の(三)の事由について検討するに、控訴人に対する所得税法違反被告事件の刑事判決において、その主張のような内容の犯罪事実が認定されていることは、成立に争いのない甲第一一号証により窺われるけれども、刑事裁判における事実の認定が民事裁判でのそれを拘束するものとは到底解されず、ひっきょう右(三)の事由は控訴人の独自の見解に基づくものであって、是認しえない。

3  そうすると、控訴人の前記主張は結局採用できない。

三、よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日高敏夫 裁判官 永岡正毅 裁判官 友納治夫)

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